アップルCEOティム・クック。今、アメリカで一番注目されている経営者といっても過言ではない人物です。そんなティムクックと先日、45分お茶することに成功しました。といっても、私の右隣に彼が座り、他7人と一緒にペットボトルの水を飲みながら、語り合ったというのが正確な表現です。 私が留学していたDuke大学の卒業生としてティム・クックがスピーチのため大学を訪れた際のことで、幸運にも、在校生を代表して彼と話す機会をもつことができたのです。read more

ティム・クックは、本人もいうように「private person」で、メディアへの露出を極端に嫌います。おそらく、日本のマスコミも、ティムへの取材には成功しておらず、彼の人物像については、ベールに包まれたまま。そこで、本日は、この光栄な機会に直接会って感じとることのできた彼のカリスマ性と、ティム・クックと日本との意外な接点につい て、ご紹介したいと思います。

ティム・クックとは?

来週9月10日に、アップルが新製品を発表するということで、市場では様々な噂が飛び交っています。I-phoneが熱狂的なapple信者に狂喜を持って迎えられ、携帯電話市場にも革命を起こしてから、はや6年。スティーブ・ジョブズ亡き後、アップルのクリエイティビティに疑問が呈されつつあり、世の中に驚きを与えるような新製品の発表が期待されるところです。スティーブ・ジョブズの後を引き継ぎ、新製品発表の場で、最も注目される人物が、現アップルCEO、ティム・クックです。

本題に入る前に、彼の経歴を。
・アラバマ州出身の1960年生まれで、1982年、オーバーン大学で生産工学の学位を取得。
・IBMのパーソナルコンピューター部門で働く
・1988年に、Duke大学(Fuqua)でMBAを取得(28歳)
・MBA卒業後、1994年まで計12年間に渡り、IBMにて勤務
・1994年、Intelligent Electronicsのcomputer reseller divisionに移り、COOとなる。(34歳)
・1997年、コンパックに転職
・1998年、コンパックに6か月勤務した後、スティーブ・ジョブズに口説かれ、アップルに転職(38歳)
・アップルでの最初の職位は、Worldwide Operationsのシニアヴァイスプレジデント
・2004年、マッキントッシュ部門の責任者となり(44歳)
・2007年、アップルのCOOに就任(47歳)
・2009年、スティーブ・ジョブズが長期療養中に代理CEOを務める
・2011年、CEOに正式就任(51歳)

オペレーションのスペシャリストとしてキャリアを積み上げ、アップルのCEOになるというのは、いささか特異なケースに見えますが、マーケティング や製品開発力が優れていたアップルに唯一欠けていた「利益を出す仕組み作り」を担ったのがティム・クックなのです。アップルが苦境にあえいでいた1998年にコ ンパックという大企業での安定したポジションを捨て、ジョブズに仕え、圧倒的な成果を生み出したことが、ジョブズから圧倒的な信頼を得た理由なのだと思い ます。

思考は現実化した – ティム・クックと会いたいという願いから面会へ

「思考は現実化する」とは、ナポレオン・ヒルの有名な言葉ですが、ティム・クックとの面談も、それを想うところから始まりました。ティム・クックが最も成功したDuke卒の著名人の一人であるということは校内でも有名だったので、「卒業までに大学に来てくれればいいなあ」と心の奥底で願っていたところ、2013年4月26日、本当に凱旋スピーチにやってくることになり、浮き足立ちました。しかし、当然、大人気のスピーチであったこともあり、会場に入る権利さえも抽選で決まり、私 は残念ながら、ビデオ中継でみることになる予定でした。意気消沈していたところ、4月20日に、以下のようなメールが届いたのです。

Title: You’re a winner: FaceTime with Tim Cook
Hello, Tomo. I am writing to let you know that you are the winner of a seat in the FaceTime with Tim Cook session on Friday from 5:30-6:30 pm in Dean Bill Boulding’s office in the Dean’s Suite. Congratulations! And thank you for your wonderful support of the Class Gift campaign.

このメールを見たときは、スパムか何かと勘違いし、しばらく放置していたのですが、よくよく文面に目を通すと、ティム・クックと学長の部屋で会えるというではないですか。嬉しさのあまり、その日は、なかなか寝付くことができず、ネットにあるティム・クックの情報をひたすら探し、彼の人となりを徹底的にリサーチしたものです。

アメリカの大学では、卒業する前に大規模な寄付キャンペーンを展開します。私の大学では、全生徒が最低300ドルは寄付するように、様々なインセンティブをつけ、学生たちのサイフの紐を緩めようとします。そのインセンティブの一つがティム・クックと「お茶できる権利」だったのです。全校生徒は450人、その中で、最大額を寄付した人と抽選で選ばれた他6人がティム・クックと個別面談できるというものです。もともと、くじ運なんて全く持っていなかったですが、このときだけは、幸運に恵まれたようです。

ティム・クックのスピーチ

大学の大ホールで行われたスピーチ。ティム・クックと学長であるビル・ボールディングの対談形式で進められました。会場は、入場制限が敷かれるほどの熱気で、ビデオ中継のスクリーンが置かれた各教室も満員状態。生徒とのQ&Aセッションも含めて全1時間のセッションで、ティム・クックの落ち着いたトーンのスピーチがとても印象的でした。大学側が、いくつか、スピーチの動画をyoutubeに投稿しているので、その中で、アップルに入社した時の話を語っている以下の動画をご紹介します。

スピーチの内容に関するご紹介は、また別の機会に。

ティム・クックは超ナイスガイだった!!

スピーチが終わったあと、ティム・クックは、気前よく学生との写真撮影に応えていました。あとで確認すると、校内のさまざまな場所で彼をみかけ捕まえて撮ったツーショット写真をフェイスブックに載せている同級生が、ひとりやふたりではなかったところからも、彼の人柄が感じられました。
私は、その間に、学長室に移動し、ティム・クックを待ち構 えていました。面談チャンスを勝ち取ったのは、アメリカ人4人、メキシコ人1人、台湾人1人、そして、日本人の私の計7人。さすがに、普段陽気なアメリカ人達もティム・クックに会えるということで、全員が緊張した面持ちの中で待つこと10分、ティム・クックが学長に連れられ、戻ってきました。そして、 最初に全員と握手をし、各自が席に着いた後、自己紹介が始まりましたが、このとき私が座ったのが、なんとティム・クックの右隣! 真横にいても、拍子抜けするほどに威圧感などがなく、むしろマイナスイオンを発しているかのような、なんとも言い表せない人間力の高さをビシビシと感じます。おそらく我々学生が、ざっくばらんに話せるようなリラックスした雰囲気を作ってくれていたのでしょう。

ティム・クックは刺身好き?

他の6人が自己紹介した後、私の番が回ってきました。日本人であることを話すと、ティム・クックが口を開き、「日本は美しい国だよね。僕は刺身が大好きで、スティーブともよく寿司屋にいっていたよ」とアップルファンにたまらないスティーブとの逸話。スティーブも寿司好きで知られているが、ティムも刺身の虜になっているのだと思うと、テンションが高くなりました。「ここノースカロライナではおいしい刺身は食べられないですけど」と私がいうと、「カルフォリニアには、僕のお気に入りの店がいくつもあるんだ」と行きつけの寿司屋さんの自慢。アイス・ブレークも兼ねて、ティムはうまく絡んできてくれました。

純潔さを保つこと。それがティム・クック流マネジメント

この面談は、45分間と時間制限があり、質問は、皆平等に聞けるように、一人2回までという割振りとなりました。新製品の秘密について探ろうとした学生もいましたが、「秋には、驚くような製品がでるからね」とかわされ、具体的な話は聞けませんでした。ただ、ティム・クックは、「世界で最高の製品を作 ること」について熱っぽく語っていたので、アップルの新製品は、とんでもない驚きを詰め込んでいることを期待してもいいのでしょう。

私自身、用意した候補の中からどの質問を実際にしようか、場の雰囲気を見つつ、最後まで迷っていたのですが、『ティムとデザイナーとのコラボレーションはどのように行っているか』について興味があり、次のようなことを聞きました。
「アップルは、世界で最もクリエイティブな人が集まり、最も革新的な製品を作る組織だと思うのですが、スティーブ亡きあと、そのデザイナー、あるいはクリエ イターたちのモチベーションを高め、継続的に魅了するために、CEOとして、デザイナーのマネジメントをどのように行っていますか?」

少し考えたあと、ティム・クックは、いつもの落ち着いた語り口で、以下のように語ってくれました。
「Stay pure(組織の純潔さを保つこと)。つまり、世界でも最も創造性を発揮できる環境・場所を提供し続けること。そのために、それを阻害するものを排除するのがCEOの役目だと思っているんだ。そうすれば、自然に優秀なクリエイターが集まり、最高の仕事をしてくれる。これによって、大企業病に陥らず、継続的に世界で最高の製品を生み出しつづけることができるのだと思うよ。」

ティム・クックはよくスティーブ・ジョブズと比較され、創造性に欠けるだとか、批判されることがありますが、彼は、ジョブズのコピーになる必要はないと思っているようです。この発言は、彼のマネジメントスタイルが凝縮された言葉であり、含蓄のある言葉だと感じました。ティム・クックは、クリエイターが力を発揮できる場所を作ることに力を注ぐ、そして、コラボレーションを促進する。それが、ティム・クック流マネジメントなのだと思います。

椅子を揺らす独特のリズム

ティム・クックの話し方は、とにかくソフトです。少人数で話すときも、スピーチのときのようなゆっくりとした口調で、本質を突いた言葉を発してくる。なぜかわかりませんが、不思議と引き込まれる陰のオーラを持っています。ティム・クックの取締役会での様子を記事で読んだことがありますが、彼は、人の話を聞いたり、話したりしているときに、椅子の後方に体重をかけ、一定のリズムで、椅子をカタカタ揺らすというのです。日本だと姿勢の悪い落ち着きのない人の烙印しか押されませんが、彼がそれをやるときには、妙な緊張感が醸成されていくのです。カリスマ性を生み出している独特な要素の一つなのかもしれませんね。

日本好きなティム・クック

2つ目の質問は、「先日、中国での製品の補償問題について、謝罪していたのを観て、様々な国の文化やビジネスに精通しているような印象を受けました。一方、グローバルCEOとして、様々な国でビジネス・人をマネージする必要があると思います。どのようにして、世界各国の地域の文化や慣習を学んでいるのでしょうか?」

非常にふんわりとした質問でしたが、ティムは、丁寧に次のように答えてくれました。
“Curiosity(好奇心)。継続して学び続ける好奇心を持っているからだと思うよ。実は、私が最初に日本を訪れたのが1980年代で、ビジネスで、日本人と交渉することがあったんだ。そのとき、こちらが、何か提案しても、日本人は、Yes/Noはっきりせず、何の反応もない。これは何なんだ?と奇妙に思ったよ。でも、しばらくして、それは、なぜなんだって、いろいろ追求していくうちに、「文化的なものなんだ」って気づいたんだよ。当然、全ての国の文化や社会構造を理解することはできないけど、常に好奇心をもって、物事をみていると、学べることも多いんだよ。
ところで、僕は、日本の文化や建築物が大好きなんだ。ソニーの製品とかも素晴らしいよね。そして、日本の経済はとてもユニークだ。アップル製品も非常に売れているし、本当にいいものであれば、売れるというマーケットだね。そして、みんな知ってるかい。(他の学生にも問いかける)日本の円相場は、1年前1ドル80円だったのが、100円に急激に変化した。信じられないだろ。非常に興味深い国だと思っているよ。”
リップサービスとはいえ、日本人として嬉しい言葉の連続。そして、日本マーケットの特徴を抑えているというのは、さすが、グローバル企業のCEO。おそらく、ハードワーカーであることも手伝って、彼の頭のなかには、膨大な情報が詰まっているはずです。彼が自称するように好奇心を持って常に深堀しているなら、その情報の質も相当高いはず。それが、いきなり日本人と話しても、すぐに気のきいた返しができる理由ではないかと思った次第です。

最後に記念撮影

こうして、45分のセッションも無事終了したあと、機転の利くアメリカ人が、ティム・クックに、最後に一人ずつ一緒に写真をとることをお願いしたところ(さすが、アメリカ人はこういう場面に強いです)、快諾してもらい、皆、記念の一枚を手にいれることができ、大満足の面会でした。
ティム・クックは、スティーブ・ジョブズのようなベンチャー起業家CEOとはまた違って、いわゆる経営者としてプロであるという印象を持ちました。この後、アメリカ議会に呼ばれ、アップルのタックス・ヘイブンでの税金問題について、証言していましたが、その質疑応答の様は、あの不思議な落ち着きオーラを眼前にしたときの感動をよみがえらせてくれました。
アップルの税金問題については、いつか、ブログで掘り下げて書いてみたいと思います。

ティム・クックとお茶できる権は6000万円の価値があった!!

後日談になりますが、ちょうど、同時期、慈善を目的としたオークションサイト「Charity Buzz」に、ティム・クックが、アップル本社でコーヒーを飲んで1時間過ごす権利を出品していました。最終の落札価格は、なんと約6000万円。珈琲は一緒に飲めませんでしたが、奇跡に近いチャンスをつかめたことで、アメリカ生活を締めくくる一生の思い出になりました。また、ティム・クックと日本の意外な接点を知ることができたので、是非、日本に来ていただき、美味しい刺身を堪能してもらいたいなと思いました。

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