前回のポストに引き続き、クラウドファンディングについて。今週、アメリカのクラウドファンディン業界に大きな進展があったようです。個人的には、かなりビッグニュースでした。
ニュースの内容は、SECが株式型のクラウドファンディング(Equity Crowdfunding)に関する規則について公開草案を開示したというものです。ようやく、制度の全体像が見えてきました。来年あたりから、本格的にクラウドファンディングの時代が到来するような予感がありますね。read more
資本市場のゲートキーパーである会計士の役割も重要ですので、クラウドファンディングの今後の展望と会計士/税理士業界のつながりも書いていきたいと思います。
(以下は、1ドル=100円として換算した日本円表記で記載していきます)

まとめ

・クラウドファンドを通じて、最大1億円まで調達が可能
・個人の投資家の投資額は、所得と資産額によって制限がある
・決算書等はSECに電子的にファイリングする必要がある
・1000万円を超える調達をする場合は、会計士による監査もしくはレビューが必要
・クラウドファンディングによる資金調達では、書類作成費用100万円、監査費用150万円、ポータルサイト仲介料:調達額の10%のコストが見込まれる

背景

NPO業界を中心として、クラウドファンディングが盛り上がっていましたが、クラウドファンディングをベンチャー企業にも活用できないかと数年来様々な議論が行われてきました。ベンチャー育成の資金を一般の投資家からも集められるということで、ベンチャー業界を盛り上げるための決定的なツールになるのではないかといわれています。しかし、日本でも投資詐欺が後をたたないように、誰もがインターネットを通じて、投資を募ることができるとなると、どうしても、良からぬ者が参入し、弱者を欺むく行為が横行することは目に見えています。現状、日本でも米国でも証券取引法により、不特定多数への投資勧誘には規制を受けますので、クラウドファンディングもこの規制に当然引っかかるという理解です。
しかし、今月、米国でJOBS Act(Jobs法)が通過し、クラウドファンディングサイトを通じ、会社への出資を呼びかけ、株式等を発行することが認められることになりました。しかし、実務上どのように行い、具体的にどのような規制を敷いていくかという点については、明確にされていませんでした。
10月23日にSECが規則案を承認し、意見募集を開始しました。
クラウドファンディングについてのSECの公開草案は、リンク先で見ることができます。Angellistがまとめたサマリーをもとに、公開草案の概要を以下まとめてみたいと思います。
the SEC’s proposed rules on Crowdfunding

総論

会社は、1つの媒介者を通じ、一般投資家(unaccredited investors)から12ヶ月間に、最大1億円までクラウドファンドすることができます。ここでいう、媒介者は、FINRAに登録されたクラウドファンディングプラットフォーム、もしくは、2)インターネットサイトを保有した証券取次業者となります。
一般投資家は、誰でも12ヶ月間に20万円から1000万円まで投資することができます。一般投資家の投資限度額は、投資家の年収と保有資産の大きい金額を基準として決められます。つまり、年収/保有資産が1000万円を下回る場合は、年収/保有資産の10%で、最低投資額は、20万円とされます。年収/保有資産が1000万円を超える場合は、年収/保有資産の5%が投資可能額となり、1000万円を限度として投資することが可能となります。投資家は、自身で、保有資産、年収額を証明する必要があります。また、クラウドファンディングの仲介者は、投資家の年収等の証明書を確認する必要があります。

開示義務について

一般投資家に出資を募るということは、経営者は、投資家に対し、説明責任を負うことになります。つまり、定期的に会社の業績や重要事項を報告する義務が課されます。この点、SECは、開示書類を電子的に提出し、公衆の閲覧に供することを求めています。

・過去3年間の主要役員の履歴書(現在の兼務状況も含め開示が必要)
・投資ラウンドの終了日、最低金額、最高金額、最高金額を超過した場合の対応
・従業員数
・事業計画書(概要を記述した文章やパワーポイントスライドでもOK)
・直近の税務申告書
・米国会計基準で作成された決算書、CEOによる業績概要の説明書
>募集金額が1000万円以下の場合:SEOによる宣誓書のみ
>1000万-5000万の場合:公認会計士による認証が必要(Cetification)
>5000万円を超える場合:監査が必要

・Cap table(資本政策の表)の概要(発行証券ごとの条件をまとめたもの)
・調達資金の使用用途(複数のオプションがあるのであれば、経営者はどのように判断して決めるかについても記載)
・リスクに関する事項の記載(証券の希薄化など)
・5日ごとに、SECに対し、資金調達の進捗状況について電子的に報告

会社の責任

・毎年、投資家及びSECに対して、決算書(調達時と同水準)及び会社の状況を開示する必要がある。会社が買収、上場、倒産するまで継続して行う必要がある。
・持分の変動に関する継続記録(持分保有者の変更、住所など)。外部に委託することが可能。
・投資会社であってはならない(ファンド、投資ヴィークルなどは認められない)

株式募集に関する規制

適格投資家と一般投資家の両者が参加することが可能であるが、同一の規制に従う必要がある。一方、クラウドファンディングと同時期に、適格投資家を対象に別途、投資ラウンドを設定し資金調達を行うことができます。
・会社から報酬を受け取っているものは、その事実を開示する必要がある
・株式の価格は、価格設定方法が開示されるまではブランクのままにすることができる。
・募集は、終了の21日前までに開始されなければならない。
・投資家は、募集終了日の48時間前までにキャンセルをすることができる。
・適格投資家に対し、売却することができる(一般投資家への売却は認められていない)
・20%以上の株式を保有するものは、仲介者による” bad-actor checks”を受けなければ成らない。
・株式募集に要するコストとして、SECは、大きく3種類のコストを挙げ、以下のように見積もっている。
>クラウドファンディングの手数料(書類作成、法的対応など)100万円
>会計士による決算書の監査/レビューの費用 150万円
>ポータルサイトによる仲介手数料:調達額の10%

仲介者に対する規制(ポータルサイト、証券取次業者)

・FINRAに”Broker Dealer “もしくは” Funding Portal”として登録する。
・正確にCAP Table(資本政策の表)を追跡できる体制が整えられているかのチェック
・投資家への啓蒙活動を行い、質問リストなどで、投資家が十分に投資リスクを認識しているかの確認
・仲介業者が受け取る報酬額についての開示
・利害関係者とやりとりした書類等の記録の保存義務
・株式発行に関わる書類をSECに届出
・仲介者は、発行証券に不備があった場合の責任者となる
・SECは、仲介者の運営維持コストを以下の通り見積もっている。
> 証券取次ぎ業者:立上げコスト7700万円、維持コスト年間2700万円
>ポータルサイト:立上げコスト4170万円、維持コスト年間900万円

ポータルサイト業者に対する規制

・ポータルサイトは、事前に定めた業種やカテゴリーに合致し、不正の疑いがないのであれば、いかなる会社からのサイト利用の依頼を受けなければならない。つまり、審査をして、特定の会社を除外することは、SECに禁止されている投資アドバイスや投資推奨の行為とみなされる。
・ポータルサイトは、株式を取得してはならない。クラウドファンディングサービスの対価として株式を受け取ることも認められていない。この規制は、ポータルサイトの役員にも適用される。
・募集に関わる資金を使用することは認められない。エスクロー口座などに保管し、保全されなければならない。
・宣伝活動は認められているが、投資勧誘支援者に対していかなる報酬も支払ってはならない。
・1000万円のFidelity Bondを保有しなければならない(従業員の不正行為に対する穂検討して)
・ポータルサイトにおいて、特定の募集案件をフィーチャーすることは可能。ただし、事前に開示された客観的な基準(例えば、終了に近い案件など)によらなければならない。主観的は判断での特集を組むことは認められていない。
・公の場で、投資家同士、投資家と会社が意見交換できる場を用意しなければならない。コメントができるのは、サイトにログインしたメンバーだけ可能であるが、その閲覧は、公衆に供されなければならない。この意見交換の場に、サイト運営者は介入することはできない。現状、スパムへの対応は未定
・発行体に対し、発行条件やプレゼンテーションのフォーマットについてアドバイスすることができる。

今後の展望

私自身、クラウドファンディングの可能性についてはやや懐疑的でしたが、具体的な制度内容を見てみますと、投資家保護をうまく行いながら、低コストで回るような現実的な仕組みを志向しているような印象を受けました。
クラウドファンディングに対する冷めた見方の一例として、可能性のあるベンチャーは、既にVCに唾をつけられているので、クラウドファンディングに頼る会社は、VCに見放された会社ばかりだという考え方です。一理ありますが、優秀な技術者であっても、VCとの接点がなく、資金調達に踏み切れない起業家は多くいますので、十分マーケットがあるのではと思います。
シードインベスターやVCとクラウドファンディングは共存できるかという点に注目していましたが、今回の規則案を見てみますと、VCとクラウドファンディングは別ラウンドの投資として同時進行が可能とのことです。
VCやシードインベスターは、一般投資家からなるクラウドファンダーを会社の応援団として活用することも考えられます。投資家が、TwitterやFacebookなどのSNSを利用し、口コミで会社のサービスを紹介すれば、社会における認知度も大幅に高まり、創業期の知名度というベンチャー企業にとっての1つの障害を乗り切ることができるはずです。そのあたりの利点をVCやシードインベスターがうまく活用すれば、クラウドファンディングを利用する会社の裾野がさらに広がるはずです。

公認会計士/税理士の役割

一定規模の資金調達にあたっては、会計士による監査・レビューが要請されています。コストの見込みとしては、1件あたり、150万円という水準ですので、大手では採算が合わないレベルです。過去数年、金融庁の規制強化で、中小監査法人が軒並み淘汰されましたが、クラウドファンディングの普及により、日本においても、中小監査法人・会計事務所による会計監査業務の拡大がありうるかもしれません。
日本では、ベンチャー企業の決算書の作成実務は、税理士・会計士に丸投げという状況が多いと思われますので、決算書の作成者と監査人の独立性をいかに確保していくかという点も今後議論される点であると思います。